「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」レビューと楽しみ方。樂茶碗の基礎知識。

最終更新日:2017年5月9日

すごい!

樂家代々の名碗が勢揃いしています。

当代の樂吉左衛門さんが、私が生きてる内にこれほどまでの展覧会を開くことはもうないいじゃないかとおっしゃているのですが、本当にそう思います。
約150の作品を出展されていますが、茶碗のうち「樂茶碗」ではないのは尾形乾山の一碗のみ。
ほかはすべて樂茶碗。

初代長次郎から当代(十五代)吉左衛門のみならず、次代(次期十六代目)の作品も2椀展示されていました。
これは個人的には大収穫!後で書きます(これからの樂茶碗)。

久しぶりに、展覧会でワクワクしました。

これまで樂茶碗に興味があったり勉強してきた方にとっては最高の展覧会です。
逆に「楽茶碗って何?」とか「茶碗って茶道の?」ってレベルの人が本展「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」から茶碗に触れるのであれば、とても幸せなことだと思います。

この記事では、「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」展の見どころと、より楽しむための基礎知識をお伝えします。

ただ、私は茶碗や美術が好きなだけの素人です。
茶道も陶芸もやっていませんし、専門的に学んだわけでもありません。
ただの素人でもお茶碗鑑賞を楽しめるということを、ご共有できれば幸いです。

樂茶碗の基礎知識

「樂茶碗」とは、「茶碗」の1ジャンルです。
広義の意味では、樂家から分家した窯や樂焼きの手法で製作された茶碗全体を指すことがあります。
狭義の意味では、主に樂家本家の当主が製作した茶碗のことを指します。
狭義でも例外として、本阿弥光悦など樂家とゆかりの深い人物が作成した茶碗のことも樂茶碗といいます。

「茶碗」とは、茶席で使用される椀のことです。
茶道でお抹茶を点てる茶碗。
俗に「お茶碗」というと「飯椀」を指すことがありますが、「茶碗」というときには「抹茶碗」のみを指すと思えば簡単です。
※「飯椀」であっても、「茶碗」として見立てられお茶席で使用されることがあります。

樂茶碗のはじまり

樂茶碗には450年の歴史があります。
創始者は「長次郎」。
みなさんご存じ「千利休」の理想を体現するために茶碗を作り、樂焼きを創始しました。
黒樂茶碗「大黒」や、赤樂茶碗「無一物」に代表される長次郎の樂茶碗は、千利休が考える「佗茶」が茶碗の形をとって顕現した代表作であるといえるでしょう。


※どちらも「重要文化財」に指定されています。

そして「黒樂茶碗」「赤樂茶碗」というジャンルは、現代まで続く樂茶碗の基本となりました。

※「大黒」「無一物」というのは、茶碗の「銘」です。名椀には「銘」がつくことが一般的で、「銘」は作者自身がつけることもありますし、それを所持した人など後生の人がつけることもあります。

千利休が活躍した当時、「茶碗」にそれほど大きな価値はありませんでした。
お茶に用いられていたのも、日本産の茶碗ではなく、唐物(中国産)と朝鮮茶碗でした。

※唐物の最高峰は曜変天目茶碗、朝鮮茶碗は井戸茶碗が有名ですが、どちらも特別展 茶の湯に出品されます!

利休と長次郎が始めた樂茶碗ではじめて、「個人が作った茶碗」に価値が見いだされ、「茶碗の作者」が重要となります。
それまでは、どこで焼かれた茶碗なのかの「窯元」が重要でした。このため、唐物や朝鮮茶碗のほとんどは作者不明です。
樂焼以降、古田織部の織部焼のほか、瀬戸焼、志野焼、江戸時代には各藩のお家焼きなど、日本国内で茶碗作りが盛んになります。

樂家は二代目から「吉左衛門」を名乗ります。
二代目吉左衛門から当代の十五代目吉左衛門まで、樂家当主はみなさん「吉左衛門」です。
これはつまり、樂茶碗が一子相伝であることもあらわしています。
2代目吉左衛門は「常慶」、3代目は「道入」と言いますが(3代目以降「入」の字が入る)、家督を譲り隠居時に吉左衛門からこのような呼び名になります。
没後に贈られる名前となることもあるようです。

長次郎は、樂茶碗を「今焼茶碗」と言いました。
長次郎の当時には、アバンギャルドで誰もやらなかった「現在」の茶碗であったのでしょう。

「今焼」として始まった樂焼は、一子相伝であったこともあり、それぞれの時代でその時々の吉左衛門が「今」を焼いた焼き物であるといえます。
先代の模倣をするのではなく、「今」を焼く。
それと同時に、先代までの伝統も受け継ぎ焼く。
相反する「焼き物」を十五代の当主たちがどのように焼いてきたのか。
当代の吉左衛門さんは、振り子に例えられています。
左右に大きく振れながら、前進していく。
上から見るとジグザグに進んでいるようにみえる。

私が樂茶碗を好きな理由もここにあるかもしれません。
樂焼きに限らず、「伝統」を創始した者は、伝統を受け継ぐような保守的な人であったのではなく、革命的で破壊的な創造者であったはずです。
そのときの常識にとらわれず型破りな創造を果たした創始者が、ただそれを模倣し受け継ぐだけの「伝統」をみたらどう思うのか。

樂家は初代長次郎から当代まで十五代続いています。
そのひとりひとりがどのように答えを出したのかは、作品をみればわかります。

十五代のうちとくに有名なのは、3代道入、通称「ノンコウ」です。
天才と呼ばれる芸術家です。

次に九代了入。
中興の祖と呼ばれます。

※15代目吉左衛門さんが伝統についてどのようにお考えなのか、「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」展の音声ガイド内でも語られていますが、下記にインタビュー記事があります。
http://www.nippon.com/ja/views/b02318/
http://www.nippon.com/ja/people/e00111/

樂茶碗の特徴

陶芸というと「ロクロ」を思い浮かべますが、樂茶碗はろくろを使わず「手提ね(てづくね)」という手法で作陶されます。
粘土を手で立ち上げていき茶碗の形にします。
そのあと、ヘラ削りといってヘラで形をつくることもあります。


※写真は九代了入の「白楽筒茶碗」

了入はヘラ削りで有名で、この作品にも大胆なヘラ削りがみえる。

樂茶碗は低温で焼成されるため脆いので、高台まで釉薬をかけることが多いです。
黒樂茶碗は、窯の中で真っ赤に焼けているところを、火バサミで掴んで取り出し急冷させることで黒くなります。
「引き出し黒」とも呼ばれる手法です。
掴んだところは釉薬が落ちるので跡が出来ることがあり、楽焼きの景色ともなっています。

赤楽茶碗は、赤い釉薬ではなく透明の釉薬をかけます。
赤いのは土の色です。

基本は黒と赤のふたつですが、白樂もあります。
個人的に白樂茶碗が大好き。
本展でも、本阿弥光悦、9代、11代の白樂が展示されています。

展覧会の概要

茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」展に出展されている一椀一椀がどれもすばらしい名椀です。
ざっと眺めて通り過ぎるのではなく、ひとつひとつとじっくり向き合って欲しい。

初代長次郎から次期16代目まで、樂歴代の150を超える作品が展示されています。
初代長次郎から順番に展示され、各代ごとにセクション分けしてそれぞれ簡単な説明もあるので、どのような時代にどのような人が作った作品なのか、簡単にわかるようになっています。

それぞれ同じでそれぞれ違う、樂茶碗の面白さを十二分に体験することができる展覧会です。

特に当代樂吉左衛門の作品は、広い一室にところ狭しと展示されている個展のような部屋があります。
この部屋だけ切り取っても充分に展覧会として成立するクオリティです。

多くの展覧会では「重要文化財」指定の作品は重要文化財や国宝であることを大きくアピールしてありますが、本展は目録にしか書いていません。
展覧会の主旨を壊さない良い演出(演出しない演出)だと思います。

樂美術館の所蔵品が多いですし、有名な作品は過去にもいろいろなところで展示されているので、樂茶碗好きな方ならほとんどの作品をみたことがあるかもしれません。
私のそうですが、過去にどれだけ見たことがあっても、本展覧会はみたほうがいいです。
私もたぶん会期中にまた行きます。
目録をみると4月中旬までの展示作品と、4月中旬から下旬から展示される作品がいくつかあるようなので、5月あたまくらいにまた行きたいと思っています。

音声ガイドは、中谷美紀さん。
当代吉左衛門さんの解説も入っていたりするので、是非聞いてください。

おすすめの見方

時間に余裕をもってみにいっていただきたいです。
音声ガイドはおすすめですが、音声に集中してしまって作品と向き合うことが出来ません(私の場合・・)。
2周することをおすすめします。

1周目は、音声ガイドを聞かず、じっくり作品ひとつひとつと向き合う。
2週目は、音声ガイドを聞きながら、いろいろなことに思いをはせて作品をみる。

ひとつひとつが素晴らしい名椀です。
ひとつひとつの作品をじっくりと堪能して欲しい展覧会です。


なお、本展は4月11日からはじまる東京国立博物館の「特別展 茶の湯」とコラボしています。
お値段も割引になりシャトルバスも出るので、4月11日以降に1日時間をとって、「茶碗の一日」を楽しむのもよいかと思います。

これからの樂茶碗

私が樂吉左衛門さんの個展に最後に行ったのは2005年。
そのときは後継者が決まっていなくて、お二人の息子さんも樂家を継がないような話があったような覚えがありました。
養子をとるのかなーとなんとなく思っていたのですが、息子の「篤人」さんが継がれることになったと今回の展覧会ではじめて知りました。

次期十六代目の作品が2椀、黒楽茶碗と赤樂茶碗が出展されていましたが、素晴らしいです。
2015年にはじめて作品を世に出したとのことですが、じっくり研鑽を積まれていたことや、「樂家」を継ぐということを精神面でも消化できていることがうかがえる作品です。
間違いなく伝統的な楽茶碗でありながら、今までにない楽茶碗で彼の個性がしっかり入っている気がします。


「今焼茶碗」としての、そして、伝統としての樂茶碗がしっかりと生きていました。

そして、最後に展示されていた十五代目の最新作。
これまた素晴らしい。

当代といえば、黒だけでは無く白や金・銀などの色と荒々しい表情の「焼貫黒樂茶碗」が代名詞のような作品でした。


ところが今回初めて拝見した最新作はとても静か。

静かさの中に強い意志が感じられる作品です。
おそらく、なにも書かれずにおいてあったら当代の作品だとは思わなかった。
でも歴代にもこのような作品はない。
なんだこれは?となったと思います。
自分の作品を作り上げ、そこに留まることなく自分自身を乗り越えていく。

十五代目のこれからの作品、そして次期十六代目の活躍。
伝統でもある樂茶碗の「今」が、これからも楽しみです。

開催概要

茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術

http://raku2016-17.jp/
東京国立近代美術館
3月14日(火)〜5月21日(日)
1,400円

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